第09回 イクボスと国際競争力

多様な人材が活躍するためには、組織全体で意識改革を行い、サポートをしていくことが必要となってきます。
子育てに積極的に関わる男性を「イクメン」と呼ぶのに対し、産休や育休などを含んだ個人のキャリアと人生を尊重し、支援する上司(経営者・管理職、男女を問わない)のことを「イクボス」と言います。仕事と生活の両立が図りやすい環境の整備に努めるイクボスが増えれば、組織だけではなく、社会全体も変わっていくのではないでしょうか。
そこで今回は、理工学部自然科学科 飯島 正徳 教授より寄稿いただきました。

日本では、男性の育休取得率は上昇しつつあるとは言え、2019年でわずか8%程度にとどまっています。これは世界的に見てかなり低い割合で、フランスでは2022年から義務化され100%になる見通しです。取得率の低さは制度が問題と思いきや、実は日本の制度は世界でも一番手厚く、「父親が取得可能な有休育児休暇時間」は30週になります。どうやら日本人としての気質や習慣に問題があるようです。

「イクボスプロジェクト」(https://www.fathering-japan-ikuboss.com/)によれば、イクボスとは、職場で共に働く部下のワークライフバランスを考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司のことだそうで、次の「イクボス10か条」を掲げています。
1.理解、2.ダイバーシティ、3.知識、4.組織浸透、5.配慮、6.業務、7.時間捻出、8.提言、9.有言実行、10.隗より始めよ。

少し前に「気合」だ、「根性」だと言っていた上司達は、今や「AI」や「クラウド」と叫ぶ時代です。すべての企業がデジタル技術を活用する時代になっています。いわゆる「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。岸田総理はDXを支える最先端半導体開発に資金を投じると表明しました。将来の国際競争力を左右する産業の成長に不可欠で、理系人材は取り合いになることと思います。

一方、米テスラ社のイーロン・マスク氏はツイッター社を買収し社員の半数を解雇しました。「長時間労働に同意するか?」を社員に迫るなど、ニュースになりました。アマゾン・ドット・コムやメタ(旧フェイスブック)も同様です。国際競争力のある米企業は厳しい経営判断を下しました。こういった企業ではイクボスについて、どう考えているのでしょうか?今のところ、日本ではこれほど厳しい経営判断はありえないと思いますが、日本人の気質や習慣が自由競争の妨げになり国際社会から遅れをとっているのではないかという見方もあります。

今後日本がどのような方向に発展するかはわかりません。ただ大学としても国際競争力は重要であり、健全な職場となるためのイクボスも必要です。私と同世代の方が、「隗より始めよ」だからと言って育休を取ることは難しいことかと思いますが、せめて「AI」や「クラウド」と叫びながら、デジタル技術を取り入れ、制度を積極的に活用できる雰囲気を作れればと思います。