第5回「女性研究者支援はうまくいったのか?意識改革は進んだのか?」

2012年より男女共同参画室の初代室長を務められた、岡田往子先生が3月でご定年を迎えられました。原子力研究所での研究の日々、2009年の文部科学省科学技術振興調整費の採択、男女共同参画室の前身である女性研究者支援室の立ち上げ、そして現在のダイバーシティ推進室に至るあゆみについて、お話していただきます。

3年間の事業で、一番難しかったのは意識改革です。すべてのプロジェクトを動かそうとするとき、いつも同じ質問が返ってきました。「男女共同参画なんでしょう?共同なんでしょう?なぜ女性だけに支援が必要なの?」。

ここで、世界で初めて人工雪の製作に成功した中谷宇吉郎博士が1950年に執筆した「未来の足音」の文章に原子力について興味深い記述があるので紹介します。「原子力の解放が、人類の文化の滅亡を来すか、地上に天国を築くか、それは目の前に迫った問題である。そして、それを決定するものは科学ではなく、人間性である。人類の総数の半ばを占め、その上子供を味方にもっている婦人たちが、この問題について割り当てられた任務は、かなり重いといっていいだろう。」これは今の社会にも通じる話だと私は思います。また、生命科学者の中村桂子氏の著書「科学者が人間であること」には「まず、一人一人が『自分は生きものである』という感覚を持つことから始め、その視点から近代文明を転換する切り口を見つけ、少しずつ生き方を変え、社会を変えていきませんか」と書かれています。さらに、「科学・科学技術に関わる人のありよう、現代社会の科学・科学技術の受けとめ方など、より広く、より深い課題があることを考えなければなりません。すべての科学技術に存在する問題なのです。」とも書かれています。

及ぼす影響の範囲が広く、より深い課題に取り組まなければならない現代社会において「自分は生きもの」であることの感覚を意思決定の場に持ち込むには、とくに女性が大きな役割を担う必要があると私は思っています。

多様性という概念には、生物種が環境変化に適応して生き延びるためには画一的な集団よりも多様性をもった集団の方が有利だという考え方が含まれています。21世紀における急激なグローバリゼーションの進展に伴い、属性や民族、宗教などによる思想や価値観などの多様性が認識されるようになりましたが、今、問われているのは、女性に限らず、障がいを持つ方や外国人、セクシャルマイノリティの方などがもたらす多様性をどのように組織に定着・発展させるかです。

多様性の定着・発展には、多様な人材がお互いを認め合い、受け入れ合う機会や風土を生み出す「インクルージョン」の取り組みが不可欠だと言われます。多くの課題を抱える現代において、組織が優先順位を上げて真剣に取り組むには、理念とビジョンの共有が極めて重要だと考えます。わが国ではいまだに、科学技術の分野も含めたすべての分野で、真の意味でのダイバーシティ&インクルージョンを実現している組織は稀有な存在です。次世代を担う若者を育む学校教育の場でこそ、女性を始めとする多様な人材の登用と活躍に向けた率先的な取り組みが求められています。