第7回 大学の教員組織における「イクボス」とは?

多様な人材が活躍するためには、組織全体で意識改革を行い、サポートとしていくことが必要となってきます。上司(イクボス)が、職場でともに働く部下に対して仕事と生活を両立しやすい職場環境づくりを行い、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむ。そうしたイクボスが増えれば、組織だけではなく、社会全体も変わっていくのではないでしょうか。そこで今回は、情報工学部情報科学科 田口 亮 教授より寄稿いただきました。

常々考えるのですが、大学の教員間に上司、部下という関係があるのでしょうか?私が本学に着任した平成元年のころは、多くの学科で研究室体制が強く、研究室の中に上司と部下みたいな関係が成立していたようにも思えます。しかしながら、昨今は研究室内におけるこのような力学関係も無くなっていると思います。では、学科における運営ではいかがでしょうか?主任教授が上司で構成員が部下ですか?学部においてはいかがでしょうか?学部長が上司で構成員が部下でしょうか?主任教授にしても学部長にしても学科、学部の代表者であり、決して上司ではないはずです。しかし、上司と部下の関係がないからと言って、個々の構成員が勝手な行動を取れば組織を維持することは言うまでもなく形成することすらできません。よって、学科、学部を組織するためには、構成員全員が個々の及ぶ範囲で学科、学部の維持・発展を考え行動することが条件であることは言うまでもありません。また、学科、学部の維持・発展が自らの利益になることを自覚する必要があります。

では、全員の構成員が学科・学部の維持・発展を考え、そのための行動を惜しまないとしても、個人個人の考えですから、皆が同じ方向性を示しているはずはありません。そこに登場してくるのが主任教授であり学部長で、学科、学部の維持・発展に最も良いと考えられる方向性を構成員に示し、構成員の意見を聞きながら修正を加えたうえで、学科、学部としてコンセンサスを得た方向性を決定する言わば調停役ではないでしょうか。また、構成員への仕事の分担(振り分け)を行う役目でもあるでしょう。

そのような役割、役目を持つ「イクボス」とは、どうあるべきでしょうか?まずは、構成員が「同志」であると認識することが「イクボス」の第一の条件でしょう。その次は、構成員のキャラクターや環境・立場の把握ではないでしょうか。学内の委員活動であっても学生サービスのための委員と教育課程を評価・設計を行う委員とでは違ったキャラクターが要求されると思います。そして、良き「イクボス」には、構成員の置かれている環境・立場の把握を的確に行うことが必要です。環境には家庭環境(家庭と職場の両立)もありますし、大学や社会から特別なミッションを任されているみたいなこともその構成員の環境でしょう。立場の把握とは、若手の教員等の研究に注力しなくてはいけない立場、逆に年齢が高くなり学科・学部の運営等に注力すべき立場のようなことを把握することでしょう。

教員における「イクボス」は、個々の構成員の環境・立場を把握し、構成員に無理させることなく、そして、その個人の能力を発揮させられるような体制・雰囲気づくりを行う役割だと考えています。