第6回

多様な人材が活躍するためには、組織全体で意識改革を行い、サポートとしていくことが必要となってきます。上司(イクボス)が、職場でともに働く部下に対して仕事と生活を両立しやすい職場環境づくりを行い、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむ。そうしたイクボスが増えれば、組織だけではなく、社会全体も変わっていくのではないでしょうか。そこで今回は、住田 曉弘 学生支援部長より寄稿いただきました。

本学に入職して12年目になりますが、その前は約25年間、リクルートやコンサルティング業などでHR(ヒューマンリソース)関連の仕事をしていました。その中で米国CCE,Inc認定のキャリアカウンセラーの資格を取得(2001年)したり、厚生労働省が認めたキャリアカウンセラー資格者を養成する事業の責任者を務めた経験を通して学んだ「キャリアとは就職すること・働くことだけではなく、人生そのもの」という視点と、その視点からイメージするイクボスのポイントをご紹介させていただきたいと思います。

まず、下の図をご覧ください。スーパーという有名なキャリアの理論家がモデルとして示した「キャリア・レインボー」[1]と言われるものです。

文部省『中学校・高等学校進路指導資料第1分冊』平成4年をもとに作成

この図は、ある人の各年齢時点の主な役割とそのボリュームを表現しています。具体的には、0歳から5歳は「誰かの子供」としての役割が全てを占め、6歳から「学生(学習者)」、20歳を過ぎて「労働者」、26歳頃から「家庭人」と役割が増えていきます。一方、55歳で親が亡くなることで「子供」の役割が終わり、65歳で「労働者」も終わり、役割も減っていきます。また、「市民」と「余暇人」は20歳頃から少しずつ役割があり、「学生」の項目からリカレント教育の経験も見て取ることができます。スーパーはこのモデルを示すことで、「われわれは生涯を通して、多様な役割を同時に複数の舞台の上で演じている現実があり、役割は相互作用をしているので一つの役割で成功すれば他の役割でも成功し、逆に一つで失敗すれば同時に他の役割もうまく演じられなくなっていく」と示唆しています。つまり、職業に就くこと、働くことを生活の他の部分から切り離して見るのではなく、逆に他の役割と絡み合っているものと考え、これらの役割をどのように組み合わせるか、役割間での葛藤を整理し優先順位をつけて行動に移していくことが重要だと言っています。イクボスを目指す人は、このキャリア・レインボーをイメージしながら、多様な環境にあるメンバーの話を聴き、一緒に時期毎のキャリア形成における「それぞれの役割を成功させる」ようコンサルテーションすることが、組織としての仕事のパフォーマンスの向上に繋がるということを理解することが重要だと考えます。ただ、理解することと評価を優しくすることとは、別であると意識することも重要だと思います。

間もなく多くの方が100歳まで生きることが普通になる時代になる、と記した最近話題の「LIFE SHIFT(人生100年時代の人生戦略)」[2]にも、キャリア・レインボーの概念に通じるものを読み取ることができます。
今後一層、この概念の意識は求められていくものと考えています。

出典:
[1]2001 年渡辺三枝子+E.L.Herr 著「キャリアカウンセリング入門」p83 The Life-Career Rainbow,Nevill&Super.1986
[2]「LIFE SHIFT(人生100年時代の人生戦略)」Lynda Gratton&Andrew Scott 著、池村千秋 訳 2016年 東洋経済新報社