第4回

「窓」は不定期連載のコラム欄です。窓を開けて風通しを良くしたいという思いから「窓」と名付けました。ダイバーシティに対する思い、ダイバーシティに対する期待等、皆さまからのご投稿をお待ちしております。 推進室ではダイバーシティ関連の書物や学外のフォーラム、他大学の取組みなど、幅広く情報収集しておりますので、これらの情報もこちらにてご紹介してまいります。

育児休業を取得しやすくなる提案:1年間の育児休業の体験から

私は昨年1月に第一子が生まれたことから、2021年度の1年間は育児休業をいただきました。最近は男性の育休取得が増えてきているとはいえ、男性が1年間の育休を取得することは珍しいのが実情です。その中で、私の1年間の育休取得に対して、色々とご対応いただけた自然科学科の教員の皆様や、関係する事務の方々にまずは感謝を申し上げたいと思います。今回は、次に続く人たちがよりよく育休制度を活用できる一助となることを願って、私が育休を取得して感じたことを述べていきたいと思います。

私は男性ももっとフレキシブルに育休を取れるように制度を工夫していって頂きたいと感じています。キャリアの途中で長期に休業を取ることは、本人にとっても、その周囲の人たちにとっても大変で困難なことです。例えば大学教員の場合は、研究活動の中断に加え、担当していた授業や自分の研究室の学生指導などをどうするかということを考えなければならず、これはおのずと周りの人(学科内の他の先生方や事務の方々、そして何より学生たち)を巻き込まざるをえません。一方で子の誕生予定について周囲に報告できるのは諸々の事情から早くても誕生の半年前となってしまいます。大学教員の場合は、授業の予定や学生の研究室配属など、1年先までの予定が既に決まっていることもあり、その段階からの調整は無理だと、育休取得を断念していた男性も今まで多かったのではないでしょうか。しかし、そのような状況は男性に限らず、大学教員に限らず、仕事している人の全てに当てはまるはずで、そのような場合、今までは女性がその全てをかぶっていたケースが多かったのだと思います。場合によっては、仕事を辞めざるをえなかったり、今までのキャリアが閉ざされてしまったケースもあったことでしょう。
このような育休取得に対する男女の偏りには、2つの点で問題があると思います。一つ目は単純に、優秀な女性の活躍の機会が失われてしまうことです。これを恐れるあまり「臨月まで仕事をして、出産後1ヶ月で職場復帰した」という話もよく聞きます。特に職が安定しないキャリア初期においては(しかも出産適齢期はキャリア初期に該当する場合が多い)、このタイミングでのキャリア損失は将来に大きく関わってくるので、そうしたくなる・せざるをえないという気持ちは痛いほどわかりますが、一方で、母体の健康や子供の成長などを考えると、女性側にその負担の全てを負わせている社会の方に問題があると考えるべきです。そして男性が育休を取得しないことによるもう一つの問題点は、育休取得のための大変な調整などのコストや、その後のキャリア損失などのリスクのすべてを女性側が負っており、男性側とその雇用主は、その女性側が払ったコストとリスクにタダ乗りしていることです。これは雇用主側の立場に立って考えると、「男性社員の配偶者」という雇用関係のない人に対して多大なコストを負わせている(その男性社員の配偶者が育休で育児・家事を全て担ってくれているから、その男性社員は今まで通り働けている)と同時に、「女性社員の配偶者」という、雇用関係のない人に対して多大なコストを支払っている(優秀な女性社員が育休でいなくなってしまう)ということも意味します。これを少しでも減らしていくためには、男性がもっと育休を取りやすく制度設計することで、育休取得に関する負担や家庭内での育児の負担(と喜びも)を適切に分配し、育休に伴うコストとリスクを社会全体で負担することが重要で、それにより男性も女性も働きやすいより良い環境が生まれるはずです。だから、まずは男性も育休を取るべきです。

とは言っても、授業を抱え、研究室に学生を抱えている状態で、育休はなかなか取りづらいです(それは女性教員の場合も同じなので、男性教員だけが「取れない」というのは変な話なのですが)。では、どのような制度設計にすれば、男性も女性も仕事と育児を両立しやすくなるのでしょうか?私のこの1年の育休経験から「最低限の仕事は継続しながらの育休」が実現できれば良いと感じました。例えば、研究室に配属された学生の指導は、その学生が自分の指導を受けたいと研究室を選んできてくれているわけなので、それは自分にしかできない仕事であり、他の人に代わってもらうことは難しいです。このように「替えがきかない仕事」というのはどなたにもあるはずで、そのような仕事のせいで「育休が取れない」となってしまっている男性教職員の人も多いのではないでしょうか(その結果、同じく替えがきかない仕事を持っているはずの女性側が大変な調整の上に育休を取らざるを得なくなります)。そこで、育休をとっても代えがきかない仕事を少しだけ継続できる制度にはできないでしょうか。具体的には、育休期間中に「在宅勤務を認める」「週2日等の短縮勤務を認める」などで実現可能と考えます。例えば週2日の勤務が認められれば、夫婦間で仕事日と育児日を無理なく分担でき、互いにコストとリスクを最小限にしながら仕事と育児を両立できるようになります。この場合であっても、授業を他の先生に変更してもらうなど、周りの教職員の皆さんや学生達にご迷惑をかけてしまうことには変わりないですが、長期間ごっそりといなくなるよりは、周囲の人も育休対応をしやすいので、お互いにメリットがあるのではないでしょうか。また、もう一つの「在宅勤務を認める」は、まさにアフターコロナのこれからの時代にこそできる先進的な取り組みとなるはずです。私たちはすでに、Zoomなどを通しての遠隔の授業・実験・ゼミ・会議などの経験を十分に積んできています。たしかに遠隔授業の課題も数多く見えてきていることは確かですが、一方で数多くのメリットも体感しているはずです。育児に関しても、子供を抱きながらZoomで授業をしたり、子供にご飯をあげながらZoomで会議に参加したりなどができます(何度も経験済み)。もちろん、育児をしながらそのような仕事に割ける時間は、1日の中で1-2時間がいいところなのですが、それでも、その時間を使って研究室の学生指導だけは最低限こなす、子供が寝ているわずかな間に学生の卒論草稿を読んでコメントをつける作業をする、などが可能です。このような制度を作っていければ、男性も育休を取りやすくなり、それは女性側の負担軽減につながり、男性と女性の両方を教職員として抱える大学側としてもメリットがある制度になると思います。

実は私自身、育休を取る前までは、この「在宅勤務方式」でなんとかできないかと、ダイバーシティ推進室に相談していました。当時はコロナ禍1年目の真っ最中で、在宅勤務・遠隔授業にも慣れてきており、この生活スタイルなら育児と仕事の両立ができる感触がつかめていました。実際に子供が生まれてから育休を開始するまでの最初の2ヶ月間は、育休は取得していないがコロナ禍のために在宅勤務という形態で、生後まもない赤ちゃんを抱えながら、6名の学生の卒論指導などの業務も並行してこなしました(同じく大学教員である妻も同様)。なのでこのまま在宅勤務を継続しながら育児にも励む道がないかをダイバーシティ推進室と相談していたのですが、結果は制度的な理由で不可でした。今実際にできているのに、なぜこの良い働き方を継続できずに、悪い方に戻らなければならないのかと理解に苦しむ部分も多々ありましたが、できないと言われたら仕方がないです。しかし育児に関しては「仕方がない」で済む問題ではありません。育児はしなければならない、これは確定事項です。だったら仕事の方をなんとかせねばならない。その時点では4月以降は対面授業が復活しそうな雰囲気であったので、何もしなければ出勤の必要が生じ、それと育児との両立は不可能なことは明らかでした。ということで、4月から1年間の育休取得を決断し、色々な調整に入りました。まずは自分の研究室にいる学生(大学院生含む)の指導を、他の先生方にお願いする手配を行いました。特に大学院の学生については、本学内で指導を代わりにお願いするのは困難であったため、他機関の先生に指導を委託するという手続きをとりました。これについては新たに学生指導を受け入れてくれた先生方に感謝するとともに、せっかく私の研究室を選んでくれたのに、自分のやりたい分野とは異なる研究テーマとなる別の研究室に移動せざるをえなくなった学生達に申し訳ない気持ちです。
他に困ったことは科研費です。科研費での研究はチームで行なっており、私自身が育休のため手を動かすことができなくても、お金を出すことでチームとしての研究を進めることができます、そしてそのお金を持っているのは自分なので、自分が科研費を執行できないと、チーム全体が研究できないのです。育休期間中であっても制度的に科研費を執行可能であることは学振側が明記しているので、当然、科研費は使えるはず(べき)だと思っていましたが、都市大側のローカルルールにより、育休取得後の科研費の執行は不可能だと育休取得決断後に大学から言われ、大きく困惑しました。今回は大丈夫だったのですが、仮に科研費で研究員などを雇用していたらどうなっていたのでしょうか?私が育休を取ることで、その人は失職していたのでしょうか?仮にそうだとしたら、そんな非人道的なローカルルールは即座に改訂すべきだと考えます。今回の場合、私はその時点で自分が代表の科研費を2つ持っていたのですが、1つはその年度の研究費を全て分担者に配算し、代表者である自分はゼロ円配算とすることで事なきを得ました(大学としては間接経費を損したことになります)。しかしもう片方の科研費の方には分担者はいなかったのでその方法が使えず、科研費の留保という手続きを取らざるを得ず、育休中に科研費を使用できなくなってしまいました。それによりチームとしての当初の研究計画が大きく乱れ、育児中の大変な時期に、その調整にも奔走しなければならないという事態になってしまいました。

このように、実際に育休を取得してみると、色々と大変であることが実感として見えてきました。場合によっては、これが理由で育休取得を断念してしまう男性教員もいるでしょうが、一方で女性側はそのせいで「育休を取らない」という選択肢がなくなります。要するにこの大変さを男性側が一方的に女性側に押し付けていることになり、それが現状です。そのような状態は明らかに不健全です。なので男性側ももっと気軽に育休を取得できるような環境が必要です。その実現のために、本学もすぐにでもアクションを起こすべきだと私は体験者として主張します。そのとりうるアクションの一つが「育児期間中の在宅勤務や週2日勤務を認める」であると提案します。男性の育児参加が世界的には既に常識となっており、大幅に遅れている日本でも最近は徐々にその機運が高まりつつある現状において、東京都市大学には先頭を切ってこの問題に取り組んでいっていただけたらと思いますし、私も経験者としてできることがあればなんでも協力したいと考えています。

参考文献:
丸山美帆子(編集),長濱祐美(編集),大隅典子(アドバイザー),『理系女性のライフプラン あんな生き方・こんな生き方 研究・結婚・子育てみんなどうしてる?』,メディカルサイエンスインターナショナル,2018
日本の研究者出版(編集),『研究者の子育て』,日本の研究者出版,2020

(投稿者:理工学部 自然科学科 津村 耕司)