第12回

多様な人材が活躍するためには、組織全体で意識改革を行い、サポートをしていくことが必要となってきます。
子育てに積極的に関わる男性を「イクメン」と呼ぶのに対し、産休や育休などを含んだ個人のキャリアと人生を尊重し、支援する上司(経営者・管理職、男女を問わない)のことを「イクボス」と言います。仕事と生活の両立が図りやすい環境の整備に努めるイクボスが増えれば、組織だけではなく、社会全体も変わっていくのではないでしょうか。
そこで今回は、情報工学部 知能情報工学科 森 博彦 教授より寄稿いただきました。

今回「イクボスとしての経験や課題等」というお題で原稿執筆の依頼を受けたとき、まず子供が生まれた頃や小さかった頃のことを考えました。幸いなことにその頃、妻は仕事をしておらず、あまり苦労をしていなかったなと思い出しました。誤解なきように書きますが、妻は子育てのために仕事を辞めた訳ではありません。

ただ、10年ほど前に妻がアキレス腱を切り、動けない時期がありました。早朝から子どもの弁当作り、夜は夕食作り等の家事のすべてを担わなければならず、働くことと家事を両立するの大変さを痛感した時期でした。

この時期、夕食が終わってから残った仕事をしていました。大半は書類書きです。その頃も17時を過ぎても大学に残っておりましたが、本来17時までに仕事は終わるはずです。私の仕事効率が良くないこともあるのですが、教育職員にとってはやはり事務的業務が多すぎることがワークライフワークバランスを崩す原因があるように思います。

私は以前トロント大学に1年間行かせていただきました。私が所属した研究室とは別分野ですが、非常に有名な先生が同じ学科にいらっしゃって、一度お話をしてみたいと思っていました。ところが何度研究室を訪問してもいつも不在です。そこで研究室の先生に尋ねたところ、「彼は家庭に不幸があって、1年くらい来てないよ」と言われました。「えっ、学科の会議とかないの?」と聞くと「年に1回あるか、ないかかな」と言われました。「じゃあ、学科の運営はどうするの」と聞き返すと、一言「それは事務の仕事であって、我々の仕事ではない」と即答され、衝撃を受けました。

日本の大学は分業がうまくできていないのではないのでしょうか。我々教育職員は研究と教育が専門なのであって、マネジメントに長けているとは限りません。事務職員の方を見ていると、それぞれの部署の内容について我々よりはるかに専門家だなと感じることも多々あります。事務職員の方から見ても、その分野の素人の教育職員にいちいち説明して相談する手間と時間がなくなり、こちらも効率化が図れるように思います。また、実質承認だけの会議がたくさんあります。省略かメール審議でも十分なはずです。大学のワークライフワークバランスを考えたとき、教育職員と事務職員の業務分担を再考することが重要なのではと新たに思いました。

日本の大学でも教育職員が教育と研究に専念できる環境が整い、若い方々が仕事においても家庭においても活き活きと活躍できるようになることを切に願っています。