第12回 

「窓」は不定期連載のコラム欄です。窓を開けて風通しを良くしたいという思いから「窓」と名付けました。ダイバーシティに対する思い、ダイバーシティに対する期待等、皆さまからのご投稿をお待ちしております。推進室ではダイバーシティ関連の書物や学外のフォーラム、他大学の取組みなど、幅広く情報収集しておりますので、これらの情報もこちらにてご紹介してまいります。

「表層的ダイバーシティ」と「深層的ダイバーシティ」

昨年、人間科学部の学術講演会で、車椅子ランナーでパラリンピアンの千葉祗暉(まさあき)氏が、日本のバリアフリーの課題を話してくださいました。諸施設に設置されている車椅子用スロープは入口に段差があるために、一人では上がれないケースが多いこと、障がい者用駐車場が健常者の車で占有されてしまっていることが多いこと、車椅子でコンビニに入った際に棚の上の商品が取れず、店員にお願いしなければならないこと、それに対して欧米では「手伝いましょうか?」と誰かが必ず声をかけてくれること等を話されました。

なぜ私たち日本人の多くは、障害者用の駐車スペースに車を留めてしまったり、自分から「手伝いましょうか?」と声をかけることができなかったりするのでしょうか。人権に関する教育が不足していることもあるでしょうが、それだけではないように思います。

市原麻衣子氏はある新聞のコメント欄*1で、「日本で少数派や弱者の人権保護が弱いのは、人権規範がどれだけ浸透しているかということ以上に」「空気を読む、TPOを考える、マナーをわきまえるなど、皆が同じように行動をすることが当然とされ過ぎて、異なる声を挙げる人を尊重したり支援したりすることすらできないでいる」と指摘し、「あらゆる分野、あらゆる場面で」「異なる意見が出てくることを当然とする社会を築いていかなければ、日本の健全な発展は望めません」と述べています。

ダイバーシティには、外から見てすぐに分かる「表層的ダイバーシティ」(人種、性別、宗教、障がい等々)と、外見だけではわかりにくい「深層的ダイバーシティ」(学歴、専門性、経験年数、価値観、嗜好等々)があることが知られています。市原氏が指摘しているのは、深層的ダイバーシティが無いままに、表層的ダイバーシティをいくら謳っても、ダイバーシティの真の実現は難しいということです。人種や性別、障がい等のダイバーシティ実現のための制度や環境を整えることはもちろん大事ですが、同時に、自らの所属する社会や集団が、異なる意見を活発に交わし合い、尊重し合うようになっているかどうかを振り返ることが必要だと思います。

これからの社会を担う学生たちが深層的ダイバーシティを当然のものとして実践し、それによって表層的ダイバーシティが実現されるためにも、私たち自身の振る舞いを深層的ダイバーシティの視点から問い直す姿勢が求められているように思います。

*1 https://digital.asahi.com/articles/ASS814F62S81UTIL021M.html?comment_id=28283

(投稿者:人間科学部 岩田遵子)